ゆめのなかでなつかしいうたをきいた。
新しい世界 K.O.L.2
ゆっくりと意識が戻ってくる。頬に当たる冷たいコンクリートの感触。いつの間にか眠っていたらしい。
(……よく眠れたなあ、おれ)
と思いながら少年は体を起こした。まだ11月とはいえ風は冷たい。
戸外で昼寝をするには寒すぎる上に、風邪をひいてもおかしくない気候だ。
冬に傾いた秋の空は薄暗く曇っている。
(あれ?)
少年は起きぬけでぼうっとしている頭を軽く振った。
(まだ何かきこえる)
それも当然。歌が流れているのは夢の中ではなかったのだ。
少年はそこでやっと、もうひとつの人影に気付く。
冷たい風が吹く屋上の、フェンスに寄りかかって立つ後姿に。
歌っているのはその男だった。
彼は白い上着に灰色のジーンズという格好で、よく響く声で歌をうたっていた。
英語の歌。聞き覚えがあるような、初めて聞くような。
男はよどみなく歌い続ける。
灰色の世界に浮かび上がった白いジャケットが、一瞬天使のように見えて――いつの間にかその歌声に聞き惚れていた自分に気付き、ばかばかしいと少年は頭を強く振る。
少年は屋上の高台の上にいた。そこに立ち上がり、白い人影を見下ろす。
「やっぱり人間じゃん」
羽があるわけでもなし。天使なんて、なんでそんなことを思ったのか。クリスマスが近いからか。
そこまで考えてばからしくなり、少年はふんと鼻を鳴らし、わざとがしゃがしゃと音を立てて備え付けのはしごを降りてやった。
予想通り、歌は止んだ。清々する。
とん、と音を立てて屋上の床に降り立ち、少年は振り返る。
白い人影はフェンスを背にして少年を見ていた。ぴたりと目が合った。
彼はそう若くない男だった。青年と呼ぶには歳が上すぎるが、中年というほどではない。
男は真っ直ぐに少年を見ている。怒っている様子はない。ただ真っ直ぐに少年を見ている。
少年は一瞬ひるみ、それを悟られないように彼を、白い人影を強くにらむ。
(なんだよ)
その言葉を発する前に。
「ごめんね、邪魔した?」
言って、白い人影が微笑んだ。その微笑を見て、少年はむっとする。
(おれが子供だからってばかにしてるのか?)
白い人影は言葉を続ける。
「歌ってもいい?」
「……勝手にすれば。おれは出て行くから」
白い人影を睨みつけて吐き捨て、少年は屋上を後にした。
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