「SSS]+「新しい世界」番外編
クリスマスライブの後。
小声で自分を呼ぶ声がして、長谷川類は振り返った。
あまり表情が動かない類にしては珍しく、その顔にぱっと笑顔が浮かぶ。
「保」
「やっほー。お誘いありがとう」
これ差し入れ、と言いながら内藤保は手に持った荷物を差し出した。中身はクリスマスらしくシャンパンだ。
「こっちこそ。忙しいのにありがとうな」
「いえいえ。思わずサッカー部の練習休みにしちゃったよ。お前らクリスマスだろ!デートするもよしダチと騒ぐもよし、今日くらい遊べ!って言って」
「ちゃんと先生してるじゃん」
「まあな」
二人がそんな話をしていると、保に気づいた遙が駆け寄ってきた。
「保くんや!久しぶり!」
「遙!ドラム格好良かったぜー」
「うへへ。ありがとう」
類と遙の初対面に居合わせた縁で、保は遙とも仲良くなっていた。大学時代は三人でよく遊んだものだ。
保に気づいた広隆も遅れてやってきて、
「お久しぶりです」
と保に挨拶した。
「久しぶり。ライブ良かったよ。相変わらず歌上手いなあ」
褒められた広隆が照れ笑いを浮かべる。保と広隆のつながりは他の二人に比べれば浅いが、保はこの素直で歌の上手い青年がけっこう好きだった。
「ギター、怠けてないだろうな?」
類がいたずらっぽい口調で聞いてくる。
「当然だろ。11月の文化祭でさ、同僚の先生たちと有志バンド組んで演奏したんだぜ」
保は胸を張ってそう言い返し、空中でギターを弾く真似をした。
「へえ。楽しそうだな」
「楽しかった!翌日から生徒が俺を見る目が変わったねー」
「そりゃ言い過ぎだろ」
ははは、と二人は声をあげて笑う。高校生に戻ったように。
「まあそれなら問題ない」
「へ?」
なにが?という口調で聞き返した保を見て、類はにやりと笑った。
「お前、来年ギターで参加な」
「あ、それええなあ」
「ええ!?無理だって!」
類の発言に遙がのんきに相づちを打ち、保が慌てた。
「何が」
類が不思議そうな顔で問い返す。
「だってお前らプロじゃん!?」
「今年だってセカンドボーカルとサックスはアマチュアだぞ」
「う」
すぱっと言い返されて保が言葉に詰まる。
「楽しそうやん。やろうや、保くん!」
遙の楽しそうな声と、
「久しぶりに保と演奏したいしなあ。文化祭みたいに」
類のその言葉がだめ押しだった。
保がそう言われると弱いということを知っていて言っているのだ。
「……考えとく」
「よし」
根負けした保の言葉に、類は大きく頷いた。これで決まったようなものだ。
「あ、そうだ。俺らこれからパーティなんだけど、お前も来る?」
類の言葉に、保はにやにや笑いを浮かべる。
「ふふふ、野暮だね類ちゃん」
「何が」
「これから俺、デートなんですねえ」
保は満面の笑みを浮かべ、おまけにピースサインまでつけた。
「あ、そうなんだ?それは失礼」
「お前も早く俺に彼女を紹介してちょうだい」
「……考えとく」
「うむ」
参ったなという顔になった類に、今度は保が大きく頷いた。してやったり。
「じゃあ……またな」
「おう、今度飲もうな」
名残惜しい気持ちはあるが、これ以上お互いを引き留めていられない。
うんざりするほどいっしょにいた頃が懐かしいが、今は今で互いに愛しいのだから。
「良いクリスマスを!」
「そっちもな!」
これが書きたかったの♪
作者的には満足です。