アスファルトから立ち上ぼる熱で景色が歪んで見える。
私は洗いざらしの白いTシャツとジーンズで道路に立っている。
私の前方には、小さな女の子がひとり。
トルコ石のような、水色がかった青色のワンピースを来ている。
熱で歪んだ世界の中で、それだけが鮮やかだった。
女の子は泣いている。
なぜか放っておくことができずに、私は彼女に近付いてどうしたの、と尋ねる。
――風船。
彼女は泣きながら言う。
飛ばされたのか。
私は空を見上げるが、それらしい影は見えない。
――青色の。
彼女が言う。私は目を凝らす。憎らしい程空は晴れている。
あ、と私は思わず声をあげた。
一面の青の中に、ちらちらと動くトルコブルーを見つけた気がしたのだ。
――あった?
少し弾んだ声で彼女が訊く。しかし私が見つけたそれは風船ではなかった。
鳥だ。
青空に紛れた、トルコブルーの小鳥。
――風船が鳥になったよ。
そう彼女に告げると、彼女は勢い良く顔を上げ空を睨んだ。
――どこ?
あそこ、と答えて私は今にも見えなくなりそうな小鳥を指差す。
彼女は瞬きもせず、今にも泣き出しそうなのを堪えているような必死の形相で小鳥を睨んでいた。
今にも折れそうな、危うい凛々しさを湛えて。
私は彼女から目を離し、一緒に空を見上げた。
小鳥は空に融けそうに揺らいで飛んでいる。
再び視線を戻すと、彼女はいなかった。
きょろきょろと周囲を見回すが影も形も見えない。
ただ、アスファルトから立ち上ぼる熱で世界は静かに揺らいでいる。


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青い風船=青い鳥=幸福の象徴。
「チェルシー」(サンタラ)より。